大嶋賢洋著『鈴蘭ビル物語』

 本作の舞台は、昭和30年代の北海道・帯広。「赤いダイヤ」と呼ばれた小豆相場の熱気に街が浮き足立つ中、飲み屋街の入り口にそびえ立つ「鈴蘭ビル」を中心に物語は展開します。

 物語は、時計屋の次男坊・謙治の視点を通して描かれます。一攫千金を夢見て相場にのめり込む大人たち、正面だけを取り繕った「ハリボテ」のようなビルの中に息づく逞しくも愛おしい生活。石炭ストーブの匂いや馬そりの鈴の音までもが伝わってくるような臨場感あふれる筆致は、かつてこの地にあった確かな「熱」を呼び覚まします。特に、理不尽な暴力に屈せず家族を守り抜く時計職人の父の姿は、読む者の胸に深く刻まれる名シーンです。

■「共同出版」だからこそ実現した、高いクオリティと発信力

 本作は、著者とクナウパブリッシングが制作コストを折半する「共同出版」という形態をとりました。これは、単なる自費出版とは異なり、出版社がプロの視点で企画・編集・デザインに深く関わり、地域の文化資源としての価値を高めて世に送り出す仕組みです。

 著者の大嶋氏は、宝島社で『別冊宝島』などを手がけた元編集者。プロとしての厳しい審美眼を持つ著者と、北海道の風土を編み続けてきた弊社の編集力が共鳴し、一般文芸書として高いクオリティを実現しました。

■地域に眠る物語を、次世代への遺産に

 「個人の記憶を、地域の共有財産へ」。この一冊には、厳しい寒さの中で人々が肩を寄せ合って生きた、人間本来の体温が宿っています。大嶋氏の「帯広物語シリーズ」第2弾として誕生した本作は、地方発の文学が持つ可能性を改めて示してくれました。私たちはこれからも、時代に埋もれさせてはならない大切な物語を形にしていきます。

本書は「北海道スロウなお買い物」内にて購入いただけます。